【モバマス】 楓さん大勝利を
乾燥しているこの季節の風は、私達アイドルには厄介な敵だ。
髪のセットは乱れるし、ホコリっぽいから、喉も痛みやすい。
それでも、朝早いだけマシなのだろうけど。
事務所の敷地に入ると、横手にある緑地スペースに後輩アイドルの姿が見えた。
確かあの子は、彼が担当していた子だ。
大きなツインテールを揺らしながら、何かを必氏に探している。
声をかけようかとも思ったけれど、今は、この風から避難するのが先決だ。
この渇いた風は、私には、とても良くない。
だから、早くお城の中に逃げ込まないと。
入り口を抜け、エントランスホールに敷かれた赤い絨毯の上を歩く。
上等なそれは、気を抜くと足を取られてしまいそう。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
声の聞こえた先で、アイドルの子と、その担当プロデューサーの男性が挨拶を交わしていた。
その、何気ない、とても当たり前のやり取りが、無性に羨ましくなる。
これは、冷たい、渇いた風に当てられたせい。
私が彼の姿を見なくなって、もう一ヶ月が経とうとしているのとは、全く関係が無い。