【咲-saki-】白望「おいでませ妖怪の里」
「はー……暑っつい、というほどでもないか」
九月某日。椅子に座り部室の机に身体を投げ出した塞が緊張感の欠片もなく呟くと、窓のそばに立っていた豊音が振り返った。
「東北だからねー、他のとこに比べれば涼しいよー」
のどかな昼下がり。空が青く日も高いこの時間に部を騒がすようなものは何もなく、暇を持て余した塞が身体を投げ出したまま布巾でモノクルを拭いたり、隅のソファで氏体のように白望が寝転がっていたりと、割かし普段通りの風景が広がっている。
「みんな、大変だよ!」
そんな平穏を打ち破るように部室の扉が勢いよく開いた。
「胡桃?」
「あれエイちゃんは?」
対面の扉から駆け込んできた胡桃の名前を呼ぶ塞。対する胡桃は、きょろきょろとしながら逆に疑問符を飛ばす。
「くるみと一緒に買い出しいったんじゃないのー?」
「あ、トヨネ。そうなんだけど……私だけ先についちゃったみたい」
「クルミ、マッテ~……」
言っているそばからエイスリンが胡桃の背後から姿を現す。レジ袋を腕に提げスケッチブックを抱えた彼女は、明らかにへとへとだ。同じくレジ袋を手に持った胡桃は背後の声に振り向き、申し訳なさそうな顔をした。
「ご、ごめんエイちゃん、いきなり駆け出しちゃって」
「ダイジョブ、ナントカ オイツケタ」
へばりながらも鷹揚に笑うエイスリンに、胡桃はますますばつが悪そうにする。他所から疑問の声が上がった。白望だ。
「それで大変って何が?」
「あー、うん、それなんだけどね」
とりあえず、とばかりに買ってきたレジ袋を胡桃が机に置く。エイスリンも続いて置き、中身を取り出していく。
「わー、ジュースとお菓子だー」
「みんな! これ見て!」
群がる皆を制して、胡桃はレジ袋から取り出した雑誌を両手で高く掲げ、注意を引く。
「何それ」
「いい質問したね、シロ」
胡桃は一旦胸を張った。
「これはいわゆるオカルト雑誌!」
「ムー?」
「それとは違う」
「けど方向は合ってる」とうなずいて、話を進める。
「これにね、私たちが載ってたの。しかもなんと特集!」
「えー私たちが!? 感激だよー」
「これの……えーっと、ここらへんに……あった! これ!」
再び掲げられた雑誌の開いたページには『妖異幻怪!? 岩手の宮守女子麻雀部!』と銘打たれている。さらに続く文には、
『つい先日幕を閉じたインターハイ。数々の超常現象がまことしやかに語られる女子麻雀の全国大会では、今年も白熱した勝負が繰り広げられた。今回は、そのインターハイに綺羅星の如く現れた宮守女子麻雀部にスポットを当て、ーーーー』
「あ、大事なのはここらへん」
雑誌がぺらぺらと捲られ、開かれたページに改めて部員の視線が集中する。
『宮守女子メンバーのルーツとも言うべきものを発見。出典は“遠野物語”“石神問答”?』
「遠野物語?」
「石神問答?」
豊音、塞と続けざまに疑問を呈す。