【モバマス】モバP「赤色の恋心」
晴天の中、太陽が頭の上に昇り、燦々とした輝きが髪を熱する正午。
空気もかつて冷ややかであった時の事など既に忘れて心地の良い気温にまでなりつつある春の初め、同様に温かみのある食事に手をつけながら俺は呟いた。
「そうでしょうか?」
対面に座る少女は、にこりと笑みを零してからそう問い返す。
――俺の家。
相も変わらず古臭いアパートの一室に俺達は居た。
複数人で食べることを考慮していない小さなテーブルには、ごく普通の家庭での休日の昼食と呼ぶべきシンプルなおかずが数品置かれている。
小皿で予め取り分けずに大皿でテーブルの真中に置かれているあたり、昔の俺の家庭事情を彷彿させた。
「ちょっと前まではほぼ毎日仕事漬けだっただろう。なのに今日は何もしないとなると……どうもなあ」
箸先でパチンと一度鳴らすと、俺は背もたれに体重を預けて染みの付いた天井を仰ぐ。
ちょっと前までというのは、ほぼ一週間前ぐらいだろうか。
大手音楽レーベルによる新曲の連続発売企画を取り付けた俺は、発足後からずっとあちらこちらへと奔走し、同じく担当アイドルも休む間も練習する間もあまりなく、次々寄せられてくる新曲の対応に精を尽くしていたのだ。
一気にレコーディングを済まして納品してそれを一ヶ月おきに発売するというのだから、つい最近まで激務と言われても納得はできよう。
そして全てが完了し、販売スケジュールと販促の打ち合わせを終えたのがつい一週間前、という訳である。
この後もテレビ収録やら何やらと言った仕事もあるのだが、これまでの拘束に比べれば容易いもの。
その中で得られた今日という休日、俺達は家で昼食をとっているのであった。
「体を労り休めることも立派な仕事ですよ、Pさん」
そんな俺を仕事人間と見たかあるいは生真面目だと捉えたかは別として、彼女は麦茶を一口飲んで息をつく。
休日に女性と家で昼食などというと何やら疑われそうだが、生憎彼女とは仕事に関係する人である。
彼女こそ、俺の担当アイドル。
長い髪を後ろに結った、静かで、純粋な少女――水野翠なのであった。