【モバマス】鷺沢文香「階段のお話」
「さて、そろそろ帰るか」
雨の止まない秋の夜。
これから外に出なければいけない事に溜息を吐きながら、傘を片手に立ち上がった。
夜になれば弱まると思ったが、そう上手くはいかず、むしろ昼ごろよりも強まっている気もする。
窓ガラスに吹き付ける雨の音は、暖房の音すら掻き消して存在感を主張していた。
「あ、プロデューサーさん……よろしければ、一緒に……」
ドアを出ようとしたところで、担当アイドルである鷺沢文香にそう声を掛けられた。
特に断る理由も無いだろう。
駅までの短い道のりだが、一緒に話せる相手がいるとより短く感じられる。
「構わないぞ。それじゃお疲れ様でした、ちひろさん」
「お疲れ様でした……」
「お疲れ様です。プロデューサーさん、文香ちゃん」