キョン「戯言だけどな」【後編】
「躊躇する事も無えだろ。赤音ちゃんとはもう、一回キスしてんだからよ。それとも何だ? アタシの顔にキスするのが嫌だとでも言いたいのか? ああん?」
……こ、この人、中身が偽者と丸っきり一緒だ! 完全無欠にヤンキーじゃねえか!
しかもバージョンアップだか何だか知らんが、威圧感が増している分、余計にタチが悪い!
「い、いえ、そんな事は……」
救いを求めるように朝倉と長門を見るも、朝倉は長門の治療に必氏だし、長門は状態が状態だ。助けなんて頼める訳が無い。
「で、でもですね。その、園山さん、ですか? 俺が近寄って行ったら、それこそ鴨が葱背負ってトコトコ歩いていってるようにしか……」
「馬っ鹿じゃねえの? それがアタシの狙いじゃん。これを好機と立ち上がってくれたら万々歳ってな? まあ、安心しろよ。ピーチ姫はどんだけクッパに攫われても五体満足だったしよお」
ああ、そう言や確かにクッパは一度としてピーチ姫を盾として使った事は無かったな。ああ見えて案外紳士的なヤツなのかも分からんぞ……と、いやいや、それが何の関係が有るってんだ。
「そもそも、キョン。お前が葱背負ってても萌えねえよ。ツインテールにして出直して来い」
「まさかのボーカロイドですか! 哀川さん、アンタどこまでネタが広いんです!?」
大体、俺がツインテールで踊った所でどこの誰が得をするのか。芸人で言えば出オチも良い所。一発屋で後は地方のドサ周りが関の山。
せめてマフラーを巻いた長兄扱いでお願いします、とかそんな事を言い出そうとした俺を遮るように人類最強は言った。
「潤だ」
「え?」
「上の名で呼ぶな。下の名で呼べ。アタシを上の名で呼ぶのは敵だけだ」
髪をかき上げながら、言う赤い彼女はその凛とした立ち姿も相まってちょいと神々しいくらいに俺の目には映った。ハルヒが神様だってのは信じられないが、この人が神様だって言われたら信じないまでも疑っちまいそうにはなりそうだ。
「お前はもう、アタシの身内だよ。安心しろ。言ったはずだぜ? 指一本触れさせねえ、ってな。お前を人質に取ろうと立ち上がった瞬間には、その横っ面にアタシの拳が減り込んでるっつーの」