【モバマス】まゆ「あなただけいればいい」
佐久間まゆという少女は、プロデューサーにとって一つの例外だった。
仕事上、最も先に事務所に入るのはプロデューサーである。始発の電車に乗り、誰よりも早くその扉を開ける彼には、当然にその鍵を持つ必要があった。
しかしある日を境に、彼はその鍵を持ち歩かなくなった。
理由は単純で、先客がいるからだ。
先客である彼女は二人分のコーヒーを淹れ、ソファーに座って彼を待っていた。湯気のたつコーヒーは黒々として、小綺麗なコップに湛えられている。
「おはようございます、プロデューサーさん」
「ああ……おはよう、まゆ」
素知らぬ風をして言葉を返すプロデューサーに、まゆはただ微笑んだ。
「コーヒー、淹れ立てです。よかったら、飲んでくれますかぁ?」
いつも通り、佐久間まゆは目を細めて、にっこりと笑う。